Case_10 管理職のメンタル不調者対応能力を高めるには?
当社はキャンプ用品などのレジャー用品を製造しています。社内には自社製品を愛用して趣味に興じる従業員が多く、そのおかげと言っていいかわかりませんが、これまでメンタル不調の問題は起きたことがありませんでした。
問題が起きなかったが故に、何も対策は取っておらず、昔ながらというか、社内にはメンタルヘルスに対する誤解や偏見も正直残っているようです。しかし、ここ数年、メンタル不調を理由に休職、退職する従業員が出始めており、人事担当者としてはきちんと対策を取る必要があるのではと考えていました。そんな折、A主任の件があり、本格的な対策に踏み切ることにしました。
A主任は本社工場の生産管理部門に勤務しています。釣りが好きな明るい人柄で、社内でも人気者でした。そんなA主任が、繁忙期を過ぎた月初から体調不良で休むことが増え、そのうち1週間連続で休むことも珍しくなくなってきたのです。
A主任の上司であるB課長は「あいつは休みをとって本当は釣りでも行ってるんじゃないのか?ロンバケ(ロングバケーション)するのも困ったもんだ」と冗談交じりに話していたそうです。そのうち数か月もするとA主任の有給休暇はなくなり、欠勤扱いとなりました。勤怠を確認した私が、B課長に状況を聞いたのですが、「体調が悪い」以外に、A主任の情報を得ることはできませんでした。
そうこうするうちに、A主任から退職届が提出され、残念ながら退職することになってしまいました。Aさんは「一身上の都合」を理由に退職しましたが、本当はメンタル不調だったのに、そのことを言い出せなかったのではないか・・・と、私は考えています。
今回の件を振り返ると第二のA主任を出さないためには、まずは現場で日常的に社員と接する管理職の対応能力を高めるのが急務と思うに至りました。管理職向けに研修を企画したいのですが、その際の留意点はなんでしょうか。
■こころの声■
- 現場で不調に気づくのが早ければ、離職を食い止めることができたかもしれない。
- メンタル不調に対する偏見は世代によってはまだまだ根深いものがあるんだよなぁ。
対応の考え方
管理職の理解不足が不調者対応の足かせとなる
A主任のケースでは、日常的に接してきたはずのB課長の変調への気づきや、状況把握が甘かったと言わざるを得ません。そもそも、メンタル不調に対する理解そのものが不足していることをうかがわせる言葉も聞かれます。次の不調者を出さないために早急な対策が必要です。
メンタルヘルス研修には大きく分けて管理職向けのラインケア研修と、一般従業員向けであるセルフケア研修があります。この事例では、管理職にメンタルヘルスの基礎知識を持ってもらい、部下のケアをしてもらいたい、とのことで、ラインケア研修を行うことになりました。
メンタルヘルス研修で重視したいポイント
ここで、メンタルヘルス研修を企画するときのポイントをあげてみましょう。
まず、受講後のゴールイメージを持つことが大切です。メンタルヘルス対策に特効薬はありません。「少しの心がけを長く継続させること」に尽きるのです。「メンタルヘルス?よくわからないな」から、「今まで誤解や偏見があったな。基本的な知識はわかった。そのくらいのことでいいなら明日から早速実行してみようか」と程度の意識を持ってもらうところまでが、第一段階ではないかと思います。目標設定が低いと思われるかもしれませんが、まずは“意識してみようか”と意識変容の第一ハードルを着実にクリアすることが重要です。
次に、適切な依頼先を検討することも大切です。産業医契約している組織なら、産業医の先生に適切な講師を紹介してもらうこともあります。また、人事担当者自らが実施するケースもあるでしょう。人事担当者などの社内の人が講師を担当するのであれば、内容の自由度はより高まりますが、一方で「社内の人間が偉そうに・・・」と受け取られるケースもあります。
その点、外部講師ですと、聴く耳を持ってもらえる可能性は高まります。外部講師を選ぶときは、専門知識のみに偏るのではなく、“実践的な知識をもとに、具体的に何をすればよいかがわかるような内容まで話してもらえそうか”を目安にされるとよいでしょう。
続いて、対象者、人数、研修時間を検討します。多くの人が参加する場合は、講演形式になりますが、受講者が増えるとそれだけ注意・集中力は分散し、記憶の定着率は下がる傾向があります。30名程度で区切ることができれば、講師の目も届きやすく、グループワークを実施することもできます。時間は、各自が考える時間、グループで議論する時間を想定すると、最低でも180分程度は確保したいところです。昨今は時勢柄、オンラインによる研修実施も増えてきました。集合させる手間が省ける反面、実施の仕方によっては一方通行になりがちという面もあります。状況を踏まえ、集合して実施するのか、オンライン実施かを検討することをお勧めします。
最後に、組織が利用できる資源を検討しておくことも忘れないようにしましょう。管理職に望んでいる姿とは、メンタル不調の早期発見・早期対処です。部下の変化に早めに気づき、対処することです。管理職は治療者ではありませんから、話を聴き、必要に応じて専門家と連携することが為すべき対処となります。最終的に連携できる社内外の専門家とその連絡先を整理して、研修で伝えておくことも忘れないようにしてください。資源が少ない場合には、外部EAPも含めて検討されるとよいでしょう。
文責:保健同人社EAPコンサルタント