Case_9 ヒトのBCP(事業継続計画)強化も必要です
東日本大震災では、当社の東北事業所の工場設備も大きな被害を受けました。早期の復旧が困難だったため、商品が提供できず、残念ながら離れていった顧客もいました。また、震災や津波で亡くなった従業員や、家族を失った従業員が複数いました。それでも従業員の一部を除いては、震災前以上に団結して働いている、皆頑張っていると、工場長からは報告がありました。
本社の人事部としては、この教訓を生かし、被災した東北地域だけでなく、各地の事業所と工場に、BCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)の策定をしました。各担当者が迅速に対応してくれたおかげで、安否確認のためのシステム導入や、設備等の復旧対応、取引先などの外部対応、資金調達・決済などの財務管理については問題なく策定でき、継続運用のために定期的に見直し・検討をしています。
設備復旧した東北の工場で、メンタルヘルスの不調者が立て続けに出ているという報告が上がってきたことがありました。自ら被災したにもかかわらず頑張ってくれた従業員たちは、相当なショックやストレスを抱えながら、従事してくれていたのでしょう。時間がたつにつれて、蓄積してきた疲労により、体調不良になったのだと思われました。彼らの働きがなかったら復旧は遅れていたことを考えると、ヒトの大切さ、ありがたさを痛感しています。
当時は交替で休みを取るなどしてなんとか業務に穴を開けずに乗り越えることができましたが、人事として、設備・財務管理だけでなく、ヒトに関連するBCPの重要性も強く感じています。具体的にどのような対策ができるのか教えてください。
■こころの声■
- 確かにヒトが不調になれば、いくら設備がよくても被災したら事業継続などできないよな。
- いざというときにしか見ない計画ではなく、日常管理にも活用できるものであるのが理想だろう。
対応の考え方
「人材」への配慮についてもご検討ください
東日本大震災では、多くの企業が震災により人材や設備を失い、商品・サービスの提供が滞り、顧客を失って事業縮小したり、最悪の場合、事業継続ができなくなったりする事態に陥りました。
これを教訓に、災害時の事業早期復旧・継続のため、有事に備えた対応方策をあらかじめ検討し、必要な訓練を定期的に行うことによる、経営の安定・向上を目指したBCP(Business Continuity Plan・事業継続計画)策定が注目されました。BCPを策定することにより、定期的管理、余剰在庫を抱えないなどのメリット、経営の安定と向上という副産物もあります。
ご承知のように、東日本大震災以後も地震や台風・大雨による河川の氾濫や土砂災害、新型コロナウィルス感染症のまん延等で、事業継続が困難になる事態が発生しています。いま一度、BCPの策定や内容の見直しが必要ではないでしょうか。
従業員の確保とケアもBCP策定方針に盛り込む
非常事態に遭遇したとき、従業員の安否確認をスムーズに行うための施策などに加えて、災害時の事業継続のための従業員をどう確保するかも考えておく必要があります。本事例では、被災した従業員が出社して頑張ってくれたとのことでしたが、交通手段の状況などによっては、本人は無事でも出社できない事態に陥ることもあるでしょう。そのような場合に備えて、被災地外からのバックアップ体制も整えておく必要があります。
そして、この事例のような不調者を出さないためにも、従業員の心身を健康に保つこと、不調を早期発見し早期回復につなげることもBCP策定方針に盛り込むことが望まれます。
ヒトのBCPとしてお勧めできるのは、臨時の健康診断を実施し、その中でメンタルチェックも行うという手法です。産業医や保健師にご協力いただき、現地職員には現地がある程度落ち着いた段階で、応援に向かった社員には帰還後1~2週間のうちに、臨時の健康診断を実施します。その中で、惨事ストレスやうつ、燃え尽きが起きていないかをチェックしていただくと、ケアがしやすくなるでしょう。
事例の現場従業員もそうですが、被災直後はいわゆる「火事場の馬鹿力」で頑張ることができても、後に心身の不調を引き起こすことはありうるのです。
その意味で、メンタルヘルスケアは重要ですが、社内のみでケア、専門家の確保、全国対応の必要性などが難しい場合もあります。産業医の先生とも相談し、いざというときに連携できる医療機関や外部事業者などを検討しておくことをお勧めします。
コロナなどの集団感染も想定する
災害だけでなく、新型コロナウィルス感染症、インフルエンザ、ノロウィルスの集団感染などによって、従業員の1~2割がダウンするような場合も想定して、BCPを考えておくことが必要です。
感染と感染拡大を防ぐために、従業員ひとり一人が注意すべきことや、共用部分の清掃・消毒の具体的な方法を日頃から周知しておくことが重要です。併せて、昨今品薄になってしまったマスクや消毒剤などを会社として備蓄しておくなどが考えられます。新型コロナウィルスの猛威は私たちの生活や仕事の仕方などを大きく変えてしまい、大きなストレス要因となっています。
しかし、これを教訓に、健康管理の大切さを再認識し、意識が高まったことも事実です。この意識の高まりを一過性のものにすることなく、BCPの検討や継続した意識啓発が求められます。
文責:保健同人社EAPコンサルタント