お役立ちコラム

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Case_8 ケア・ギバーズ・ケア~支援者の支援~

 昨今の異常気象で当社は河川の氾濫、土砂崩れで大きな打撃を受けました。被災した工場だけでなく、近隣の倉庫、営業所、自宅が倒壊した従業員も少なくありません。東京本社では災害直後から、人事部のA課長が指揮をとり、安否確認、物資調達、各種の問い合わせに丁寧に対応していました。以来ずっと、A課長は、被害状況に応じて、会社の補償制度の説明や事務手続き、従業員のメンタルヘルス対策のほか、一時的に別の地域に避難していた従業員の支援等、本当に休む間もなく対応し続けてきました。

 私を含め、多くの従業員がいろいろな形で支援に参加しましたが、数か月を過ぎた頃から会社に対する不満や、対応の不備を指摘する声があがるようになり、無理な要望も増えてきました。A課長は、そうした声の一つひとつに丁寧に耳を傾けて、話を聞いていました。そして、「人事はよろずもめごと引き受け係みたいなところがあるからね」「現場はみんな大変で気が立っているから仕方ないよ。あとは私が対応するから任せてもらっていいよ」と、部下の私たちのことまで気づかってくれていました。

 その後も、A課長は毎日遅くまで会社に残って日常業務をこなしながら、災害対応を続けていましたが、ある日から体調不良で休暇をとるようになりました。最初は持病の腰痛が悪化したとのことでしたが、いつものA課長では考えられないようなミスが続いたり、連日休むことも多くなってきたりしたため、B部長や産業医の先生とも相談し、精神科を受診するよう勧めました。その後、A課長から「うつ病」の診断書が提出され、休職となりました。

 今、私たちがA課長にできることはないでしょうか。そして今後、災害や惨事が起こった時に、何に気をつければよいでしょうか。


■こころの声■

  • 大きな災害に被災すると、その対応は並大抵ではない。同じ人事として心が痛む。
  • 部内だけで対応するには負担が大きすぎる。何か体制を作っておかないと・・・。


対応の考え方

「支援する人」にも支援が必要です

 災害時に人事部として対応することは多岐にわたり、担当者には大きな負担がかかります。そのため、支援する側の人事部からA課長のような不調者を出さないようにするには、事前に対策を検討しておくことが重要です。まずは「支援者の支援」について、知っていただきたいと思います。

 先の東日本大震災では、救助に当たった消防署員、警察官、自衛隊員の方々のケアが必要だ、という報道がありました。災害支援などの現場で、被災者の人命救助や心のケアに当たるプロ支援者の世界では、Care-givers Care(ケア・ギバーズ・ケア)という考え方が任務遂行上、とても大切とされています。ケア・ギバーズは支援を提供する人たち、つまり支援者を意味しますので、ケア・ギバーズ・ケアは「支援者の支援」ということになります。訓練を積んだ支援者であっても生身の人間です。その人なりの限界があり、厳しい任務や高度のストレス環境にさらされ続けると、個人のストレス耐性の限界を超え、バーンアウトする(燃え尽き状態になる)危険が高まります。そうした状態に対処したり、予防するための支援がケア・ギバーズ・ケアです。

 ちなみに、私たち心理専門職も、支援の場ではプロ支援者として心理学的知識を活用して面接等の援助に当たります。しかし、過剰な緊張状態が長く続けば疲弊してしまいます。そのようなときのケア・ギバーズ・ケアとして、援助活動が終了した後、リラックスを心がけ、専門職同士でケースについて共有する時間を意図的に設定しています。ケース共有の場ではお互いに心情を含めて肯定的に話を聴くようにすることで感情のはけ口ができるように心がけています。

事前の心理教育を実施し、有事の際の事業継続計画を策定する

 A課長は、災害直後から、さまざまな対応の窓口となって必死に働き続け、自分の体調のことなど考えていなかったでしょう。東日本大震災においても、避難所になった学校の教職員の皆さんは自ら被災しているにもかかわらず、自分のことより避難してきた人たちの支援を続け、疲れ果てて体調を崩してしまった、ということがありました。

 本事例でも、事前にケア・ギバーズ・ケアの考え方を知っていたら、どこかの時点でA課長本人が自分の不調に気づいて休養をとったり、周りの誰かがA課長の負担を軽くすべく対策を講じたりできたかもしれません。人事部内で、特別な申し送りの場を設けてケアをすることもできるでしょう。

 企業の人事や総務の担当者としては、このようにケア・ギバーズ・ケアの必要性を認識し、セルフケアやチームでの支援体制を組み、メンバー同士で心情を含めて共有できる機会を設けることをおすすめします。支援者が体調を崩すと、その支援者からケアを受けていた従業員への影響もありますから、その点でも事前の心理教育は重要です。また会社として、このような緊急事態における人員配置や業務分掌などを整理し、事業を継続するための対応策をBCP(Business Continuity Plan・事業継続計画)として策定しておくことも必要でしょう。


文責:保健同人社EAPコンサルタント

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