お役立ちコラム

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Case_15 がん治療中の従業員を退職させずに支援したい

 開発プロジェクトのリーダーAさん(49歳)が、人事部に相談にやってきました。
彼は、45歳のときC型肝炎ウィルスに感染していることがわかり、インターフェロンによる慢性肝炎の治療を続けており、そのことは、私も知っていました。日頃のAさんは、顔色もよく、元気そうに見えていましたので、今月の定期検査で肝細胞がんが見つかったと聞いて驚きました。
 早期発見で進行していないため、がんを含む肝臓の一部を切除する外科手術を主治医より勧められています。回復具合を見て職場復帰したいのだが、会社としては受け入れ可能だろうか・・・というのが、相談内容でした。


 入院期間は、術後の状況次第ながらもおおよそ10~20日間と言われているそうで、入院を含めて1か月の休暇をとり、体力の回復具合を見ながら徐々に職場復帰したい、というのが本人の希望でした。
 慢性肝炎による肝がんの場合、がんを切除しても慢性肝炎は治るわけではありませんので、その後もがん発症のリスクは残ります。術後は経過観察のために、月に1回は検査通院を続けることになるとのことでした。体調不良のため、休暇をとることもあるかもしれないので、職場には迷惑をかけると思うが、研究職を続けたいという言葉から、仕事と病気治療の両立への強い意志が伝わってきました。


 Aさんは、若い頃から優秀な人材として知られ、会社としても、ぜひ仕事を続けてほしいところですが、産業医や産保スタッフと連携して、どこまでサポート体制を整えられるか、前例がないだけに正直戸惑っています。


■こころの声■

  •  本人に治療の状況や体調について聞きづらいし、手術後どんなペースで働くことになるのか、予測が難しい。

  • Aさんの気持ちも大事にしたいだろうが、あまり特例扱いもできないんじゃないかな・・・。


対応の考え方

「仕事と病気の両立」支援が可能かどうかを検討する

 本事例では、Aさんの希望と会社の希望は「復帰」で一致しています。問題は、会社がAさんの仕事と病気治療の両立を支援できるかどうかです。まず、Aさんはどんなサポートが必要で、会社側はどんなサポートができるかをよく確認して、両立支援の方法を検討することをおすすめします。

 具体的なサポート体制として構築しておきたいことは、二点あります。①産業医・保健師などの産業保健スタッフ、特に保健師が身近な相談相手となって、積極的にAさんと連絡・面談を通して関わり、Aさんの体調や定期的な検査の状況を把握できること、②産業医、人事、医療機関との連携を図ることができることです。さらに、Aさんの主治医と情報共有・連携が図れるよう、Aさんに協力をお願いできるとよりよいでしょう。

 本人を中心に人事・産業医・産業保健スタッフ・主治医が関わり、サポート体制をつくることを目指します。なお、産業保健スタッフを置いていない企業などでは、外部事業者に依頼するのも選択肢の1つです。


病気を言い出せる職場の雰囲気づくり

 仕事と病気治療の両立を支援するにあたり、まず必要なのは、Aさんの主治医から「就業可能」という診断書をもらうことです。そして、本人の了解を得た上で、周囲の社員にも病状の理解を深めてもらい、無理なく仕事が続けられるようにサポートしてもらうようにします。社員には、日頃から両立支援に関する啓発も必要です。

 現在、日本人の2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで亡くなります。一方で、がんの検査・治療の進歩はめざましく、5年生存率が平均で50%を超え、慢性疾患として治療を続けながら仕事をする人も増えてきています。国のがん対策推進基本計画においても「働く世代へのがん対策の充実」を重点的課題として盛り込んでいます。
 しかし、がん患者の復職や就職は依然として容易でないのが現状で、がん患者とその家族は、肉体的、精神的、経済的負担だけでなく、仕事と治療の両立が難しいなど心理的、社会的負担と苦痛も抱えています。「病気で長期療養が必要ということを報告した後日、解雇を言い渡された」「有給休暇を使い切った後の通院は欠勤せざるを得ない」「自分のキャリアに不利となるため、病気を隠し治療を中断した」。この種の話が実際にあるのです。

 ある調査によると、労働者が病気になった時の会社での相談相手は「直属の上司」が最も多かったそうです。そうなると、上司の理解度が、患者の職業生活を大きく左右します。病気の理解を上司の求めるのは、マネジメントに負荷がかかりすぎるのではないかという見方もありますが、まずは管理職の理解を深めるために研修を行うなどして、病気を言い出せる職場の雰囲気づくりが必要と言えるでしょう。




*厚労省 事業場における治療と仕事の 両立支援のためのガイドライン
厚生労働省 政策レポート がん対策についてhttps://www.mhlw.go.jp/seisaku/24.html 
国立がん研究センター2019年(58.6%)https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0808_1/index.html
厚労省がん患者・経験者の仕事と治療の 両立支援の更なる推進についてhttps://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000559467.pdf
令和2年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況 Microsoft Word - R02結果の概況_個人調査 (mhlw.go.jp)


文責:保健同人フロンティアEAPコンサルタント

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