
2026年法改正で必須に ―高齢従業員の健康経営施策まとめ【人事が今すぐ見直すべきポイント】―
日本企業にとって、高齢従業員の健康と安全をどう守り、どう活躍につなげるかは、もはや“福利厚生”の枠を超えた経営戦略のテーマになっています。背景には、人口構造の変化、深刻化する労働力不足、健康経営の普及、そして法改正という複数の要因が重なっています。
特に健康経営の観点では、高齢従業員の健康状態が、生産性の低下・医療費の増加・労災リスクの上昇といった企業の損失につながることが、各種データで明らかになっています。 そのため、企業には「何となくの配慮」ではなく、健康状態の把握・職場環境の改善・働き方の調整を計画的に進めることが求められています。
さらに2026年4月には改正労働安全衛生法が施行され、60歳以上の高年齢労働者への労災防止措置が事業者の努力義務として明確化されました。 加えて、健康経営度調査(大規模法人部門)でも2025年度から高齢従業員への配慮がより詳細に問われるようになり、企業は安全衛生と健康管理の両面で体系的な対応が不可欠です。
本記事では、最新の公的データとガイドラインをもとに、企業が今すぐ見直すべき「高齢従業員向け健康経営施策」を整理し、実務で使える形で解説します。
目次[非表示]
- 1.なぜ高齢従業員施策が重要なのか
- 1.1.高齢になっても働く社会構造へ
- 1.1.1.若年層の採用が難しくなり、60〜70代の活躍が拡大
- 1.1.2.65歳以上の就業率は過去最高を更新
- 1.1.3.高齢者の就業者数は20年間で2倍以上に増加
- 1.1.4.シニア人材は技能伝承・現場運営に不可欠
- 1.2.高齢従業員の健康状態は企業の生産性に直結
- 1.3.健康投資のROIが高い
- 2.企業が求められる対応とは
- 3.高齢従業員向けの施策
- 4.実務で押さえるべき設計ポイント
- 4.1.個別対応
- 4.2.集団対応(管理職・組織運用)
- 4.3.助成金の活用
- 5.まとめ
なぜ高齢従業員施策が重要なのか
高齢になっても働く社会構造へ
日本では、生産年齢人口(15〜64歳)が長期的に減少しています。総務省「人口推計(2024年10月1日現在)」によれば、1995年に8,716万人でピークを迎えた生産年齢人口は、2024年には7,372万8千人へと減少しました。統計局ホームページ/人口推計/人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口‐)
約30年間で1,300万人以上が減った計算となり、労働供給の構造そのものが大きく変化しています。
この人口構造の変化により、企業は次のような課題と変化に直面しています。
若年層の採用が難しくなり、60〜70代の活躍が拡大
厚生労働省「令和6年 雇用動向調査令和6年 雇用動向調査結果の概要|厚生労働省」では、15〜34歳の入職率が前年より低下しており、若年層の採用確保が難しくなっている実態が示されています。一方で、55歳以上の入職者は増加傾向にあり、企業が人手不足を補うために60〜70代の採用・活躍を広げている状況が確認できます。
65歳以上の就業率は過去最高を更新
内閣府「高齢社会白書(令和6年版)令和6年版高齢社会白書(全体版)(PDF版) - 内閣府」によると、
65〜69歳:53.5%
70〜74歳:34.5%
と、いずれも長期的に上昇傾向であり、過去最高水準です。
高齢者の労働参加は今後も増加が見込まれています。
高齢者の就業者数は20年間で2倍以上に増加
総務省「労働力調査(基本集計)」統計局ホームページ/労働力調査(基本集計)年平均結果では、65歳以上の就業者数は約930万人と過去最多となっています。2000年代初頭と比較すると2倍以上に増えており、企業の人手不足を支える重要な戦力となっています。
シニア人材は技能伝承・現場運営に不可欠
多くの企業は、高齢従業員を「技能・経験の面で重要な戦力」と位置づけています。JEED(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構) が実施した企業調査(データでみる70歳以上の定年・継続雇用制度の導入効果と工夫)では、高齢者を雇用する理由として 「優れた技術・技能の活用」や「若手への技能継承」 を挙げる企業が高い割合を占めており、現場の運営においてシニア人材が欠かせない存在であることが示されています。
特に製造業や建設業、サービス業では、長年の経験に基づく熟練技能が業務の質を支えており、企業の生産性維持や人材育成において高齢従業員が果たす役割はますます大きくなっています。
これらのデータが示すように、
生産年齢人口の減少
若年層の採用難
高齢者の就業率・就業者数の増加
シニア人材の重要性の高まり
といった要因が重なり、高齢になっても働き続ける社会構造が定着しつつあります。
企業にとっても、高齢従業員の活用は「選択肢」ではなく、持続的な事業運営のための必須戦略となっています。
高齢従業員の健康状態は企業の生産性に直結
高齢従業員は、加齢に伴い以下の健康課題を抱えやすくなります。
視力・聴力の低下
筋力・バランス能力の低下
慢性疾患(高血圧・糖尿病など)
腰痛・関節痛などの筋骨格系疾患
フレイル・ロコモティブシンドローム
これらは、 労災リスク増加 → 長期離脱 → 生産性低下 という負の連鎖を引き起こします。
特に、転倒・腰痛・熱中症は60歳以上で発生率が高く、企業にとっては人的損失が大きい領域です。
健康投資のROIが高い
ROI(Return on Investment)とは、投じたコストに対してどれだけの成果が得られたかを示す指標です。
高齢従業員向け施策は、比較的低コストで効果が出やすいことが示されています。
作業台の高さ調整や照度の改善、作業環境の見直し、運動プログラム等による健康保持増進 (参考:厚生労働省 高年齢労働者に配慮した 職場改善マニュアル)
転倒防止のための照度改善、作業姿勢・作業台調整、健診フォローの強化 (参考:厚生労働省 エイジフレンドリーガイドライン)
これらは、 労災減少・医療費抑制・プレゼンティーズム改善に直結し、健康経営のROIを高める施策として注目されています。
企業が求められる対応とは
2026年4月1日から、改正労働安全衛生法により、60歳以上の高年齢労働者への労災防止対策が事業者の努力義務として課されます。
これは、健康経営の流れと完全に一致しており、 「高齢従業員の健康と安全を守ることは企業の責務である」 という社会的要請が強まっていることを示しています。
さらに、健康経営度調査大規模法人部門の2025年度公開の調査票では、
職場環境整備
作業管理
健康教育
健康チェック
労働時間管理
など10項目にわたり、高齢従業員への配慮が問われました。
なお義務の内容については以下の記事で詳しく説明していますのでぜひこちらもご覧ください。
全事業者必読!高年齢労働者の労災防止が努力義務化 令和8年4月までに企業が準備すべき7つのポイント | 保健同人フロンティア
高齢従業員向けの施策
日本企業における高齢従業員の増加は、単なる人手不足対応ではなく、健康経営の重要テーマとして位置づけられています。厚生労働省の「エイジフレンドリーガイドライン」では、高齢従業員が心身の健康を維持しながら働き続けられる環境づくりが、企業の生産性向上・離職防止・労災リスク低減につながると示されています。
健康経営の観点からは、職場環境・働き方・教育の3つをバランスよく整えることが不可欠です。
以下では、ガイドラインに基づき、企業が重点的に取り組むべき施策を整理します。
職場環境の改善
高齢従業員の身体特性に配慮した環境整備は、転倒・腰痛などの労災リスクを減らし、健康維持と生産性向上を同時に実現する健康経営施策です。
段差解消、滑りにくい床材
手すり設置、照度改善
パワーアシスト・昇降補助装置
作業台の高さ調整
ポイント
小さな改善でも事故防止効果が大きく、エイジフレンドリー補助金など助成制度の活用も可能。 健康経営の「安全で働きやすい職場づくり」の基盤となる領域。
作業管理・健康管理
加齢に伴う体力・回復力の変化を踏まえた働き方の調整は、健康保持・疾病悪化防止・離職防止につながる健康経営の中心施策です。
夜勤・重量物作業の回数調整
作業時間・休憩の見直し
健診・体力測定に基づく配置転換
作業前セルフチェックの導入
ポイント
ガイドラインでも「高年齢労働者の特性を考慮した作業管理」が明確に求められており、健康経営の「働き方の最適化」に直結する領域。
従業員教育
高齢従業員自身と周囲の従業員が加齢特性を理解し、安全行動を習慣化することは、組織全体の健康リテラシー向上と労災予防につながる健康経営施策です。
加齢による心身の変化の理解
転倒・腰痛・熱中症予防教育
不調の早期申告を促す仕組み
図・写真・動画を活用した再教育
ポイント
ガイドラインが重視する「わかりやすい教育」を実施することで、健康行動の定着と職場全体の安全文化の醸成につながる。
実務で押さえるべき設計ポイント
高齢従業員向けの健康経営施策は、単発の取り組みでは効果が出にくく、 「個別対応」+「集団対応」+「助成金活用」 の3つを組み合わせることで、最も高いROI(投資対効果)を発揮します。
個別対応
ROIを高めるには、高齢従業員の“個人差”に合わせた最適化が重要です。
高齢従業員は、同じ年齢でも体力・視力・聴力・持病の有無などに大きな個人差があります。
そのため、画一的な対応ではなく、個々の状態に合わせた“個別最適化”が最も効果を発揮する領域です。
■ 個別対応の具体策
視認性・聴力低下・バランス能力のチェック
作業前セルフチェックシートの導入
夜勤回数の調整、短時間勤務、隔日勤務
ロコモ・フレイル予防の短時間運動プログラム
体力測定に基づく業務調整
集団対応(管理職・組織運用)
効果を“持続”させるには、組織として仕組み化することが重要です。
個別対応だけでは、現場任せになりやすく、施策が継続しません。
そこで重要になるのが、組織としての仕組み化=集団対応です。 管理職の理解、作業基準書の改訂、ヒヤリハットの分析など、組織的な運用を整えることで、施策の効果が長期的に持続し、ROIが安定します。
■ 集団対応の具体策
年代別ヒヤリハットの月次分析
作業基準書の高齢者向け改訂
休憩ルールの明文化
再雇用者向け初期研修
助成金の活用
施策の“実行力”を高める、ROIを押し上げる資金源として助成金の活用は有効です。
高齢従業員施策は助成金との相性が良く、費用負担を大幅に軽減できます。
助成金を活用することで、施策の導入スピードが上がり、ROIをさらに高めることができます。
■ 活用できる主な助成金
65歳超雇用推進助成金: 定年廃止、66歳以上の継続雇用制度整備など (参考:65歳超雇用推進助成金 |厚生労働省)
エイジフレンドリー補助金: 転倒・腰痛防止設備、運動指導、教育など (参考:エイジフレンドリー補助金|厚生労働省)
まとめ
高齢従業員への配慮は、法令対応にとどまらず、 企業の生産性向上・人材確保・組織の持続性に直結する健康経営施策です。
生産年齢人口の減少(総務省)
高齢者就業率の上昇(内閣府)
シニア人材の重要性(厚労省・経産省)
改正労働安全衛生法の施行
健康経営度調査票項目の詳細化
これらを踏まえ、企業はエイジフレンドリーな職場づくりを進めることが求められています。
高齢従業員の健康を守ることは、企業の未来を守ることにつながる。
その視点こそが、これからの健康経営のスタンダードです。
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健康経営では、性差や年齢など、従業員の多様性に伴う健康課題への対応が重要視されており、教育の役割はますます大きくなっています。
今回の法改正に伴う対応策として、当社のコンテンツをぜひご活用ください。












